最近話題になってますね。「電子レンジで調理したものは食べるな」なる怪文書。
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=274306&g=123105
この文章、あまりに香ばしすぎるので、壁に貼って毎日音読したいくらいです。 

というのも、短いながらもトンデモ文章の特徴をこれでもかと凝縮した、いわば「テンプレ」なんですよね。
何かの機会で「トンデモ文章を書かないと!」という機会が訪れた場合は是非ともこれを参考にすべきです。それくらい美しい。

というわけで、何故これが「テンプレ」たりうるのか解説し、最後に筆者もトンデモ文章を書いてみようかと思います。 

1.伝聞と権威を使え!

これは某大手電器メーカー幹部の話です。
彼は、こう耳元で囁きました。

「電子レンジで調理したものは食べるな」 
非常に美しい書き出しだと思います。
「秘密を知っている人間が私だけに教えてくれた」という雰囲気を醸し出していて、実に悪そうな感じです。
もちろん突っ込んではいけません。
トンデモ文章に大切なのは雰囲気を醸成することなのです。
もっと言えば、トンデモ文章のキモは陰謀論の臭いを醸し出すことにあります。 
 国際自然医学会会長、自然医療の草分けである森下敬一博士によると、、、
というのも如何にもな伝聞ですね。 非常に美しいと思います。
まず、日本人は「国際」という言葉に弱いのです。「世界的には…」というだけで日本人の何割かは騙せます。 
ちなみにこの「国際自然医学会」なるもの、非常に怪しいです。まず学会じゃないんですね。
本会は、お茶の水クリニック院長・森下敬一博士(血液生理学者)の「血液をきれいにして健康になろう!」という呼びかけに応える仲間の集まりです。

国際自然医学会会員には、月刊『森下自然医学』誌を購読しながら、自然医学の楽しい行事や講演会などに参加できる一般会員と、さらに、お茶の水クリニックで診察を受けることのできる特別会員とがあります。
とありますが、 要はマルチ商法団体なんですね。スゴイ!
とはいえこの記事は正しさの検証ではないので、このあたりにしておこうと思います。 

さて、「大手電器メーカー幹部」にしろ「博士」にしろ、いかにトンデモだろうとある程度の地位のある人間の発言であるわけです。
これは権威を利用するテクニックで、けっこういろんなところで使われているテクニックです。
怪しげな通販でスポーツ選手や芸能人が健康器具を持って絶賛している構図を時たま見ることがありますが、あれと本質は同じです。

要は、伝聞と権威を上手いこと使って陰謀論めいたアトモスフィアを醸し出すこと。
これがトンデモ文章の冒頭において必要なことになります。

冒頭において「あり得ない意見」を出した上で説得力を持たせ、読者に読んでもらうためには、こうするのが最も効率が良いのだと思います。

2.動物を使え!


別に件の文章に限った話ではないのですが、動物を使って危険性を訴える手法は何故か人気です。
動物は本能的に危ないものを嗅ぎ分ける能力がある、というイメージがあるようですね。
だったら野良猫がホウ酸団子食って死ぬなんて事案は起こりませんが。
件の文章においても、動物を使った例はきっちり使われています。
電子レンジで加熱した水と、ふつうの水を並べておくと、動物は決して電子レンジの水を飲まないといいます。

それは本能で危険を直感するのです。
それくらい実験しろよ。とか突っ込まない。
動物は危険性を察知している、ということそのものが重要であって、そこに正しさを求める理系的態度は嫌われますよそこの御仁。

ちなみに最初に挙げたツイートに関して言えば、蟻は肉食なので動物性脂肪の方に寄りつくのは当然です。そんでもってマーガリン規制は主にトランス脂肪酸が理由で、欧米においては「マーガリン」が規制されていることは特になく「トランス脂肪酸が含まれる食品」に表示義務があり、我が国では過剰なトランス脂肪酸バッシングのせいでむしろ飽和脂肪酸の過剰摂取が問題となっています。馬鹿は救えませんね。

3.陰謀論は万能である

陰謀論のアホらしさに関しては秦郁彦先生の著書が、陰謀論のパターン化については辻隆太郎先生の本(どちらも新書)があるのでそちらを読めばいいのですが、トンデモ文章にとって陰謀論は非常に重要です。 
世界の陰謀論を読み解く――ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティ (講談社現代新書) [新書]
陰謀史観 (新潮新書) [単行本]
というのも、トンデモ文章の目的は「隠された事実を暴く」というところにあるからです。

なぜ事実は隠されているのか? という問いに対して、彼らにとっては陰謀論という答えがしっくりくるのでしょう。この辺りは先掲の新書が参考になるかと思います。

4.理論より情緒

1〜3でいろいろと特徴を述べてきましたが、一番重要なのはここだと思います。
リスクコミュニケーションの分野では、安全は理屈、安心は感情、ということが言われています。
つまり、どれだけ理論上安全であっても、安全ではないと思えば無意味なんですね。
それは決して馬鹿にできることではありません。

写真機が登場した頃、「カメラで撮られると魂が抜かれる」という俗説があったりしましたが、その例を思い起こせばこのことは理解できるかと思います。

伝聞にしろ、動物の利用にしろ、陰謀論にしろ、それらは理論の構築ではなく感情に訴えかけることを目的としています。書いている人がどう思っているかはともかく、ではありますが。
感情に訴える文脈では、科学的なワードは単に感情を煽るだけのツールとなります。
そこには厳密さは必要ありません。「何となく怖い」というイメージだけで充分ですし、そのイメージだけで信じてしまう人も存在するのですから。

逆に言えば、こういったトンデモ文章は、感情に訴えかける文章のお手本的な部分を持ちます。
皆様も感情に訴える文章を書く際は、こういった文章を手本にしてみるのも良いのではないでしょうか。

5.実際に書いてみた

というわけで、筆者も書いてみました。トンデモ文章。
医者はレッドブルを飲まないという。
医者の家に行くと、激務であるはずなのに栄養ドリンクの類いを全く見かけない。家族も全く飲まない、というより飲ませてもらえないようだ。

ドイツ環境医学推進協会のハンス・シュミット博士によれば
「レッドブルを摂取したマウスは奇形の子供を産む確率が高く、寿命も短い」という。

どうやら、医学界ではレッドブルは有害であるというコンセンサスができているようだ。
しかし、レッドブルは様々なスポーツのスポンサーになったりCMを放映したり、時折無料配布まで行って企業イメージの向上に努めている。

この行動が、なにか後ろ暗いものを必死で隠そうとしているように見えるのは、私だけだろうか。
実際、ニュースにならないだけで、レッドブルが原因と見られる死亡事故が多発している。
しかし、レッドブルにとって都合の悪いニュースはスポンサーの権力を利用して揉み消されているように思える。

このような事情があるにもかかわらず、企業や政府は利益を優先して人命を軽視している。
彼らは不都合な事実を隠蔽し、企業を繁栄させることで甘い汁を吸っているのだ。
とここまで書きましたが、本物の電波には敵いませんね。
ちなみにレッドブルの過剰摂取がまずいのは事実で、カフェイン中毒が主な原因だと思われます。

カフェインのLD50(半数致死量)は200mg/kgで、体重50kgの人だと10gくらい摂取すると半分の人が死ぬことになります。
実際にはこれより少ない量で死亡している人がいることは事実ですが、LD50はあくまで半数致死量であり、それより少ない量で死ぬ人もいますし、それより多い量で死なない人もいます。

なにはともあれ、みなさんもこれを機に怪文書デビューを果たしてみてはいかがでしょうか。