nuqneH !
と、クリンゴン語で挨拶をしてみました。
今回は、需要があるかはわかりませんがSF・ファンタジーなどに使える架空言語の作り方を考えてみようかと思います。
というより、「人工言語を作るために必要な知識」の解説でもしようかと思います。
とはいえまずは「言語にはどんな特徴があるか」というところから書かないといけないので、大学(学部)の一般教養レベルの言語学の知識から始めようと思います。筆者は言語学専攻じゃないんですけどね。なんでこんな知識ついたんでしょうね。
0~2章は前提知識の解説なのでかったるい人はいきなり三章から読んでください。
それでは、語っていきましょう。
知ってる人は読み飛ばしてください。
はっきり言って訳語が微妙ですので、あんまり気にしないで下さい。
言語の恣意性を提唱したのはフェルディナン・ド・ソシュールという言語学者です。ただソシュールは本を書かなかったので、彼の講義を教え子がまとめて本にしました。それが有名な「一般言語学講義」です。言語学を勉強する人は読んだ方がよさげですが、言語学の講義ではないのですっ飛ばします。
とはいえ、シニフィアンとシニフィエについては解説しなければなりません。
ここではゆるふわ理解でいいので、たとえ話を使いましょう。
たとえば、“Water”も“Aqua”も“Tubig”も、「水」という概念を表す点では同じです。
ついでに言えば、もしあなたが「水」という概念を表すために“$$$”という表現を用いたとしても、何ら問題はありません。
この事例において、シニフィアンは “Water”, “Aqua”, “Tubig”といった表現、シニフィエは「水」というイメージや概念になります。
そして、シニフィアンとシニフィエの関係には一切の必然性が存在しないというのが言語の恣意性です。
要するに、架空言語を作る場合、単語は好きに設定して良いということですね。
おそらく、大抵の人が「私 / は / 鈴木 / です」と分けると思います。もちろん正解です。
ちなみにこの分解では「文」を「形態素」に分解しています。
一方で、形態素は更に「音素」という要素に分解できます。
「鈴木」であれば「/s/, /u/, /z/, /u/, /k/, /i/」ですね。
音素の定義に関してはこれもまた論争があるらしく面倒なので割愛しましょう。
重要なのは、「音素」が「形態素」を構成し、「形態素」が「文」を構成するということです。
これが何故重要なのかは、動物の声と比較すれば一目瞭然です。
たとえば、犬は「キャンキャン(嬉しさ)」「グルルル(威嚇)」「クゥーン(悲しみ)」「ワゥーン(仲間を呼ぶ)」程度の言語しか持ちません。
たとえアクセントなどで鳴き声に多彩な意味を持たせたとしても、複数の鳴き声を合成して新しい意味を創出することはできません。
このあたりは言語の創造性ともかかわってきますが、ヒトの言語は音素の合成によって形態素を生み出し、新しい意味を創出できることが大きな特徴になっています。
つまり、架空言語を設計する場合には、どのような単語の設定をしても構わないが音素の設定をしなければいけないということになります。
たとえば、アラビア語には“/Kh/”という音素がありますが、これは日本語にはないので日本語の単語には使えません。 実際、音写を行う際には“/h/”の音があてられています。
音素の話は後述しますが、ここでは「ある言語で発音できる音は限られている」ということを覚えておきましょう。
さて、言語学の基礎をやったところで、 様々な架空言語の例について見ていきましょう。
これだけでもけっこうミステリアスな感じになるので、一般的にはこれで良いと思います。
では、どれくらい有効なのか、 見ていくとしましょう。
序盤の「言語がわからなくて大変」という状況を補強するツールになっています。
実際のところこれは英語ベースで、音素を入れ替えただけになっています。
詳しくはここに載ってますので、別のタブで開いてご覧下さい。
いろいろすっ飛ばして実用例だけ見てみると、
“I am a student.”という意味を伝える際には「ウ エトゥ エ スティオヅォムティ」と言えば良いことになります。
充分、異国っぽさが出ていますね。
ちなみに文字も凝っているので、個人的には好きな架空言語です。
詳しくはWIkipediaを読めばいいのでパス。
過剰なまでの濁音の使用が特徴的ですね。
てっきり複雑な言語構造なのかと思ったら、特定の語彙を英語にのせているだけの構造だったりします。
こちらも解析はとっくになされていて、Wikiにまとまっています。
小道具として使うなら英語などの既存言語を少しいじるだけでも充分架空言語になることが見て取れると思います。
むしろ、文法を一から作る方が酔狂であることが見て取れると思います。
しかし、世の中には酔狂がいるものです。
次章では、酔狂な架空言語を見ていきましょう。
言わずと知れた架空言語の代表格ですね。
スタートレックに登場する戦闘民族、クリンゴン人の公用語(?)です。
Wikipediaによると、クリンゴン語が言語として完成度を高めることになったのは言語学者の関与によるところが大きいようです。ちなみに映画『アバター』 にあるナビィ語も言語学者が関与しているので、文系諸氏はこういうことができるようにがんばりましょう。
クリンゴン語の大きな特徴は、異星人っぽくなるようにOSV型の文法をとっている点でしょう。
OSV型の言語は文が目的語→主語→述語となります。英語はSVO型、日本語はSOV型、アラビア語はVSO型で、個人的にはVSO型も相当異国的に聞こえますが、これについては後述します。
OSV型はかなり風変わりな聞こえ方になるようで、これに聞き慣れない音素を組み合わせることで異文化感がマシマシになると推測できます。
先ほどのメルニクス語(SVO型)を更にOSV型に変更してみましょう。
英文: I am a student.
メルニクス語: ウ エトゥ エ スティオヅォムティ
OSVメルニクス語: エ スティオヅォムティ ウ エトゥ
一般に目的語には名詞がきやすいので、聞き慣れない音素を紛れ込ませることは容易になります。
したがって、文頭に聞き慣れない音素を配置することで風変わりな感じが出るのでしょう。
文頭に長い単語が出ることも、英語圏の人にとっては奇異に感じるのかもしれません。
語形変化はかなり規則的ですが、そちらについては後述したいと思います。
まずは、言語の種類から決めていきましょう。
架空言語を作る際は孤立語を選択するのが最も簡単だと考えられますが、膠着語と屈折語についても解説しておこうと思います。実際、ラテン語における修辞など屈折語には屈折語の良さがあるのです。
また、膠着語は日本語に近いため、日本人が作るのであればむしろ作りやすいかもしれません。ちなみにクリンゴン語も膠着語です。
一方、抱合語はネイティブアメリカンの言語に多く見られるらしく、筆者は詳しくないどころか日本の専門家を知らないレベルなので解説は行いません。サピアの著書などを丹念に追えば少しはヒントがあるかもしれませんが。
語幹や単語に接頭辞や接尾辞をくっつけることで文を構成していく言語です。
たとえば、「食べる」という動詞においては「食べ」という語幹が存在し、それに「ない」「ます」「ろ」「られる」などの接尾辞(日本語文法では助動詞)をつけることで意味が構成されます。
といってもピンとこない人が多そうなので、実際の人工言語で見ていきましょう。
膠着語を採用している人工言語にはエスペラント語が存在します。有名な「世界言語」ですね。
Wikipedia先生によると
膠着語の人工言語を作るのであればエスペラントを勉強するのが近道となりそうです。
(もちろんクリンゴン語でもOKでしょう)
膠着語は一定の語形変化が保たれるので覚えやすく、文法が構成しやすいのが魅力ですね。
屈折語の自然言語においては語形変化が複雑すぎて覚えられないことが多く、この傾向はアラビア語に顕著です。このあたりは屈折語の節で説明しましょう。
ラテン語については講談社現代新書の『はじめてのラテン語』 でも読んで勉強しましょう。
屈折語は性・数・格・時制の一致に厳しくなりがちです。屈折語フェチにはそれがたまらないそうですが、飼い慣らされただけかもしれません、判断は読者に委ねます。
しかし、屈折語においては語順が自由になることが多々あります。その最たるものがラテン語です。
大西英文先生の著書から例を拝借しますが、「アントニウスはクレオパトラを愛している」という文を表現する際に
とはいえ、何度も述べている通り屈折語の語形変化は鬼畜です。
たとえばアラビア語の場合、人称代名詞を名詞や前置詞につけることができますが、
おそらく世界一有名なアラビア語であるالسلام عليكم(アッサラーム・アレイクム)のعليكمは三人称男性複数の接尾辞であるكمを「上に」を意味する前置詞であるعلىにつけたものです(実際は特殊変化ですが)
ちなみにالسلامは定冠詞الを「平和」を意味するسلامにつけただけです。
つまり直訳すると“The peace be upon you”となります(ちなみにアラビア語においてbe動詞は助動詞的に用いられますので、この文中には特にありませんが暗黙的に存在します)
…と、この説明だけで心が折れそうになる方がいそうですが、屈折語の勉強をしていると言語構造について今までになかった視点を得られるので、架空言語制作を志すならラテン語かアラビア語の学習をオススメしたいと思います。入り口だけでもいいので。
語形変化一切なし、 文脈と語順と接置詞で補う感じです。
古代中国語がその代表例ですね。
論語を例にとりましょう。
『吾十有五而志乎學(吾れ十有五にして学に志す) 』というフレーズがありますが、これの語順を入れ替えて『吾十有五而學乎志(吾れ十有五にして志を学ぶ)』とすると全く別の意味になります。
語形変化がないのはいいのですが、そのぶん硬直性が高まるのでなかなかバランスが難しいと感じます。語順によって単語が様々な意味を持つようなことが容易に起こるので、一長一短ですね。
というわけで、言語類型論から言語を俯瞰していきました。
語形変化のパターンや文法規則など、そういったものの構築にはある程度の勘が必要になりますし、パターン化もできない(言語は恣意的である)ため、既存の人工/自然言語を参考にするのが近道かと思います。
とはいえ、闇雲に勉強するよりは、ある程度の道筋を知っておいたほうが良いと思います。
本稿の目的はまさにそれで、読者が資料収集の指針を立てられればそれで良いと思っています。
さて、文法の基本構造はいろいろとありますが、文の構成要素は何も類型論から語るだけで済むものではありません。クリンゴン語の例で述べた語順の法則もありますし、品詞の選定も必要となります。
次節では、そのあたりについて考えていきましょう。
膠着語であれば接頭辞や接尾辞の選定、屈折語であれば性・数・時制などに応じた変化規則を考えつつ品詞の種類を考え、機能と順番を考える必要があります。
というわけでまずは一般的な品詞を書いてみました。
細かい部分は運用でカバーしましょう。
また、アルトネリコシリーズのヒュムノス語における「想音」のように品詞を作ってしまうのも手です。
語順に関しては先述した通りです。
OSV型は異世界っぽくなりますが、音素もけっこう大事です。
というわけで、次節では音素について考えたいと思います。
日本語は音素が少なく、また口の前の方で発音する音が多いため平板な印象があります。
音素の概説は中央大学の堀田隆一氏のサイトに詳しいのでそちらを参照。
#1021. 英語と日本語の音素の種類と数
とまぁ、ここらへん詳しく触れるには音声学の知識が必要なことが理解できるでしょう。
しかしわざわざ音声学を勉強するのも面倒なので、偉大な芸人の力を借りましょう。
そう、タモリです。
密室芸時代のタモリの名曲『アフリカ民族音楽 ソバヤ』 ですが、タモリは本当にうまく他の言語の音韻を真似できることが理解できるかと思います。
四カ国麻雀や世界の短波放送なんかもそうですね。
というわけで、音素の設計はタモリを目指し、他の言語を真似ることで掴むべきでしょう。
では、具体的に真似るのによさそうな言語をみていきましょう。
ナビィ語でもそうなのですが、アフリカ系の言語はかなり異国感を出せるようです。
ここでは吸着音が特徴的な南アフリカの言語、コサ(Xhosa)語を見てみましょう。
一見すると意味不明かと思われます。筆者も意味がわかりません。
がんばって解読してください。英語の資料をあたるのがよいでしょうか。
筆者が少し知っているアラビア語もまた、異国感を出せる言語の一つです。
アラビア語は喉の奥から発音する音が多い言語です。
特にع(アイン)は咽頭音といい、喉の奥から強く発音するように指導されます。
日本語は声門音が多いため、この子音は意識しないと出せません。
Wikipediaのこの記事にもあるように、調音部位はかなり重要です。
コサ語の吸着音にしろアラビア語の咽頭音にしろ、普段触れる言語圏では使わない調音部位を利用した言葉はかなり奇異に聞こえます。
たいてい日本人は日本語のほかには印欧語族しか触れないので、ここから外れた語族に属する言語から音素を引っ張ってくることはかなり有効だと思われます。
とはいえ、資料が充実していない言語だと厳しいとは思いますが。
三行でまとめます
と、クリンゴン語で挨拶をしてみました。
今回は、需要があるかはわかりませんがSF・ファンタジーなどに使える架空言語の作り方を考えてみようかと思います。
というより、「人工言語を作るために必要な知識」の解説でもしようかと思います。
とはいえまずは「言語にはどんな特徴があるか」というところから書かないといけないので、大学(学部)の一般教養レベルの言語学の知識から始めようと思います。筆者は言語学専攻じゃないんですけどね。なんでこんな知識ついたんでしょうね。
0~2章は前提知識の解説なのでかったるい人はいきなり三章から読んでください。
それでは、語っていきましょう。
0 言語の特徴
言語の定義ははっきりとはしていないのですが、一般に「言語」は以下のような特徴を持つとされています。- 恣意性
- 二重分節性
- 転位性
- 創造性
知ってる人は読み飛ばしてください。
0.1 言語の恣意性
「恣意」という言葉はあまり聞き慣れませんね。どのような意味があるのか辞書をひいてみましょう。……ということを書くと余計混乱します。し‐い 【恣意】自分の思うままに振る舞う心。気ままな考え。「選択は―に任せる」「―的判断」
はっきり言って訳語が微妙ですので、あんまり気にしないで下さい。
言語の恣意性を提唱したのはフェルディナン・ド・ソシュールという言語学者です。ただソシュールは本を書かなかったので、彼の講義を教え子がまとめて本にしました。それが有名な「一般言語学講義」です。言語学を勉強する人は読んだ方がよさげですが、言語学の講義ではないのですっ飛ばします。
とはいえ、シニフィアンとシニフィエについては解説しなければなりません。
ここではゆるふわ理解でいいので、たとえ話を使いましょう。
たとえば、“Water”も“Aqua”も“Tubig”も、「水」という概念を表す点では同じです。
ついでに言えば、もしあなたが「水」という概念を表すために“$$$”という表現を用いたとしても、何ら問題はありません。
この事例において、シニフィアンは “Water”, “Aqua”, “Tubig”といった表現、シニフィエは「水」というイメージや概念になります。
そして、シニフィアンとシニフィエの関係には一切の必然性が存在しないというのが言語の恣意性です。
要するに、架空言語を作る場合、単語は好きに設定して良いということですね。
0.2 言語の二重分節性
「私は鈴木です」という文を分けていくと、どうなるでしょうか。おそらく、大抵の人が「私 / は / 鈴木 / です」と分けると思います。もちろん正解です。
ちなみにこの分解では「文」を「形態素」に分解しています。
一方で、形態素は更に「音素」という要素に分解できます。
「鈴木」であれば「/s/, /u/, /z/, /u/, /k/, /i/」ですね。
音素の定義に関してはこれもまた論争があるらしく面倒なので割愛しましょう。
重要なのは、「音素」が「形態素」を構成し、「形態素」が「文」を構成するということです。
これが何故重要なのかは、動物の声と比較すれば一目瞭然です。
たとえば、犬は「キャンキャン(嬉しさ)」「グルルル(威嚇)」「クゥーン(悲しみ)」「ワゥーン(仲間を呼ぶ)」程度の言語しか持ちません。
たとえアクセントなどで鳴き声に多彩な意味を持たせたとしても、複数の鳴き声を合成して新しい意味を創出することはできません。
このあたりは言語の創造性ともかかわってきますが、ヒトの言語は音素の合成によって形態素を生み出し、新しい意味を創出できることが大きな特徴になっています。
つまり、架空言語を設計する場合には、どのような単語の設定をしても構わないが音素の設定をしなければいけないということになります。
たとえば、アラビア語には“/Kh/”という音素がありますが、これは日本語にはないので日本語の単語には使えません。 実際、音写を行う際には“/h/”の音があてられています。
音素の話は後述しますが、ここでは「ある言語で発音できる音は限られている」ということを覚えておきましょう。
さて、言語学の基礎をやったところで、 様々な架空言語の例について見ていきましょう。
1 簡単な架空言語
ここでは三つの言語を紹介しましょう。- メルニクス語(テイルズオブエターニア)
- グロンギ語(仮面ライダークウガ)
- 竜語(スカイリム)
これだけでもけっこうミステリアスな感じになるので、一般的にはこれで良いと思います。
では、どれくらい有効なのか、 見ていくとしましょう。
1.1 メルニクス語
ナムコの名作RPG、テイルズオブエターニアの異界セレスティアの言語として設定された言語です。序盤の「言語がわからなくて大変」という状況を補強するツールになっています。
実際のところこれは英語ベースで、音素を入れ替えただけになっています。
詳しくはここに載ってますので、別のタブで開いてご覧下さい。
いろいろすっ飛ばして実用例だけ見てみると、
“I am a student.”という意味を伝える際には「ウ エトゥ エ スティオヅォムティ」と言えば良いことになります。
充分、異国っぽさが出ていますね。
ちなみに文字も凝っているので、個人的には好きな架空言語です。
1.2 グロンギ語
仮面ライダークウガの敵怪人が使う架空言語です。詳しくはWIkipediaを読めばいいのでパス。
過剰なまでの濁音の使用が特徴的ですね。
1.3竜語
ベセスダのRPG、The Elder Scroll V: Skyrimにおいてドラゴンが用いている言語です。てっきり複雑な言語構造なのかと思ったら、特定の語彙を英語にのせているだけの構造だったりします。
こちらも解析はとっくになされていて、Wikiにまとまっています。
小道具として使うなら英語などの既存言語を少しいじるだけでも充分架空言語になることが見て取れると思います。
むしろ、文法を一から作る方が酔狂であることが見て取れると思います。
しかし、世の中には酔狂がいるものです。
次章では、酔狂な架空言語を見ていきましょう。
2 酔狂な架空言語
ひとまず、クリンゴン語を例に語っていきましょう。言わずと知れた架空言語の代表格ですね。
スタートレックに登場する戦闘民族、クリンゴン人の公用語(?)です。
Wikipediaによると、クリンゴン語が言語として完成度を高めることになったのは言語学者の関与によるところが大きいようです。ちなみに映画『アバター』 にあるナビィ語も言語学者が関与しているので、文系諸氏はこういうことができるようにがんばりましょう。
クリンゴン語の大きな特徴は、異星人っぽくなるようにOSV型の文法をとっている点でしょう。
OSV型の言語は文が目的語→主語→述語となります。英語はSVO型、日本語はSOV型、アラビア語はVSO型で、個人的にはVSO型も相当異国的に聞こえますが、これについては後述します。
OSV型はかなり風変わりな聞こえ方になるようで、これに聞き慣れない音素を組み合わせることで異文化感がマシマシになると推測できます。
先ほどのメルニクス語(SVO型)を更にOSV型に変更してみましょう。
英文: I am a student.
メルニクス語: ウ エトゥ エ スティオヅォムティ
OSVメルニクス語: エ スティオヅォムティ ウ エトゥ
一般に目的語には名詞がきやすいので、聞き慣れない音素を紛れ込ませることは容易になります。
したがって、文頭に聞き慣れない音素を配置することで風変わりな感じが出るのでしょう。
文頭に長い単語が出ることも、英語圏の人にとっては奇異に感じるのかもしれません。
語形変化はかなり規則的ですが、そちらについては後述したいと思います。
3 実際に架空言語を作るには
ここまではかなり長い前置きでしたが、ここからはきちんと「架空言語の作り方」を書いていきます。まずは、言語の種類から決めていきましょう。
3.1 言語類型論的視点からみた言語の種類
言語類型論という分野があるのですが、それによると地球上の言語はおよそ4種類に分けられるそうです。- 膠着語
- 屈折語
- 孤立語
- 抱合語
架空言語を作る際は孤立語を選択するのが最も簡単だと考えられますが、膠着語と屈折語についても解説しておこうと思います。実際、ラテン語における修辞など屈折語には屈折語の良さがあるのです。
また、膠着語は日本語に近いため、日本人が作るのであればむしろ作りやすいかもしれません。ちなみにクリンゴン語も膠着語です。
一方、抱合語はネイティブアメリカンの言語に多く見られるらしく、筆者は詳しくないどころか日本の専門家を知らないレベルなので解説は行いません。サピアの著書などを丹念に追えば少しはヒントがあるかもしれませんが。
3.1.1 膠着語
膠着語の代表は日本語です。語幹や単語に接頭辞や接尾辞をくっつけることで文を構成していく言語です。
たとえば、「食べる」という動詞においては「食べ」という語幹が存在し、それに「ない」「ます」「ろ」「られる」などの接尾辞(日本語文法では助動詞)をつけることで意味が構成されます。
といってもピンとこない人が多そうなので、実際の人工言語で見ていきましょう。
膠着語を採用している人工言語にはエスペラント語が存在します。有名な「世界言語」ですね。
Wikipedia先生によると
エスペラントは印欧語を基にしているため屈折語的性格を持っていると言われることがあるが、文法上の性を持たず、語幹に一定の接辞(接頭辞・接尾辞)や文法語尾を付け加えて語の意味を限定したり拡張したりするなど、膠着語的性格を遥かに色濃く有しており、実際にはほとんど膠着語であると言って差し支えない。だそうで。
膠着語の人工言語を作るのであればエスペラントを勉強するのが近道となりそうです。
(もちろんクリンゴン語でもOKでしょう)
膠着語は一定の語形変化が保たれるので覚えやすく、文法が構成しやすいのが魅力ですね。
屈折語の自然言語においては語形変化が複雑すぎて覚えられないことが多く、この傾向はアラビア語に顕著です。このあたりは屈折語の節で説明しましょう。
3.1.2 屈折語
屈折語の代表はなんといってもラテン語でしょう。(アラビア語もそうですが)ラテン語については講談社現代新書の『はじめてのラテン語』 でも読んで勉強しましょう。
屈折語は性・数・格・時制の一致に厳しくなりがちです。屈折語フェチにはそれがたまらないそうですが、飼い慣らされただけかもしれません、判断は読者に委ねます。
しかし、屈折語においては語順が自由になることが多々あります。その最たるものがラテン語です。
大西英文先生の著書から例を拝借しますが、「アントニウスはクレオパトラを愛している」という文を表現する際に
- Antonius Cleopatram amat.
- Antonius amat Cleopatram.
- Cleopatram Antonius amat.
- Cleopatram amat Antonius.
- amat Cleopatram Antonius.
- amat Antonius Cleopatram.
とはいえ、何度も述べている通り屈折語の語形変化は鬼畜です。
たとえばアラビア語の場合、人称代名詞を名詞や前置詞につけることができますが、
- 三人称男性形単数
- 三人称女性形単数
- 三人称[男女]性形双数
- 三人称男性形複数
- 三人称女性形複数
- 二人称男性形単数
- 二人称女性形単数
- 二人称[男女]形双数
- 二人称男性形複数
- 二人称女性形複数
- 一人称単数
- 一人称複数
おそらく世界一有名なアラビア語であるالسلام عليكم(アッサラーム・アレイクム)のعليكمは三人称男性複数の接尾辞であるكمを「上に」を意味する前置詞であるعلىにつけたものです(実際は特殊変化ですが)
ちなみにالسلامは定冠詞الを「平和」を意味するسلامにつけただけです。
つまり直訳すると“The peace be upon you”となります(ちなみにアラビア語においてbe動詞は助動詞的に用いられますので、この文中には特にありませんが暗黙的に存在します)
…と、この説明だけで心が折れそうになる方がいそうですが、屈折語の勉強をしていると言語構造について今までになかった視点を得られるので、架空言語制作を志すならラテン語かアラビア語の学習をオススメしたいと思います。入り口だけでもいいので。
3.1.3 孤立語
孤立語は至極単純です。語形変化一切なし、 文脈と語順と接置詞で補う感じです。
古代中国語がその代表例ですね。
論語を例にとりましょう。
『吾十有五而志乎學(吾れ十有五にして学に志す) 』というフレーズがありますが、これの語順を入れ替えて『吾十有五而學乎志(吾れ十有五にして志を学ぶ)』とすると全く別の意味になります。
語形変化がないのはいいのですが、そのぶん硬直性が高まるのでなかなかバランスが難しいと感じます。語順によって単語が様々な意味を持つようなことが容易に起こるので、一長一短ですね。
というわけで、言語類型論から言語を俯瞰していきました。
語形変化のパターンや文法規則など、そういったものの構築にはある程度の勘が必要になりますし、パターン化もできない(言語は恣意的である)ため、既存の人工/自然言語を参考にするのが近道かと思います。
とはいえ、闇雲に勉強するよりは、ある程度の道筋を知っておいたほうが良いと思います。
本稿の目的はまさにそれで、読者が資料収集の指針を立てられればそれで良いと思っています。
さて、文法の基本構造はいろいろとありますが、文の構成要素は何も類型論から語るだけで済むものではありません。クリンゴン語の例で述べた語順の法則もありますし、品詞の選定も必要となります。
次節では、そのあたりについて考えていきましょう。
3.2 文法を構成する
形態論的な尺度から文法が決定したとはいえ、文法については真っ新の状態です。膠着語であれば接頭辞や接尾辞の選定、屈折語であれば性・数・時制などに応じた変化規則を考えつつ品詞の種類を考え、機能と順番を考える必要があります。
というわけでまずは一般的な品詞を書いてみました。
- 名詞: 主語や目的語になる
- 形容詞: 名詞を修飾する
- 動詞: 述語になる
- 助動詞: 動詞を修飾する
- 前置詞: たいてい名詞を修飾する気がする
- 接続詞: 文章の流れを整える
- 助詞: 屈折語だと要らない子だと思う
- 代名詞: 面倒なので英語の関係代名詞なんかもここに突っ込む
- 疑問詞: たいてい文頭にくる気がする
- 副詞: 用言を修飾する
- 感動詞: あったほうが言葉が豊かになる気がする
細かい部分は運用でカバーしましょう。
また、アルトネリコシリーズのヒュムノス語における「想音」のように品詞を作ってしまうのも手です。
語順に関しては先述した通りです。
OSV型は異世界っぽくなりますが、音素もけっこう大事です。
というわけで、次節では音素について考えたいと思います。
3.3 音素を考える
まずはわかりやすく、日本語における音素からみていきましょう。日本語は音素が少なく、また口の前の方で発音する音が多いため平板な印象があります。
音素の概説は中央大学の堀田隆一氏のサイトに詳しいのでそちらを参照。
#1021. 英語と日本語の音素の種類と数
とまぁ、ここらへん詳しく触れるには音声学の知識が必要なことが理解できるでしょう。
しかしわざわざ音声学を勉強するのも面倒なので、偉大な芸人の力を借りましょう。
そう、タモリです。
密室芸時代のタモリの名曲『アフリカ民族音楽 ソバヤ』 ですが、タモリは本当にうまく他の言語の音韻を真似できることが理解できるかと思います。
四カ国麻雀や世界の短波放送なんかもそうですね。
というわけで、音素の設計はタモリを目指し、他の言語を真似ることで掴むべきでしょう。
では、具体的に真似るのによさそうな言語をみていきましょう。
ナビィ語でもそうなのですが、アフリカ系の言語はかなり異国感を出せるようです。
ここでは吸着音が特徴的な南アフリカの言語、コサ(Xhosa)語を見てみましょう。
一見すると意味不明かと思われます。筆者も意味がわかりません。
がんばって解読してください。英語の資料をあたるのがよいでしょうか。
筆者が少し知っているアラビア語もまた、異国感を出せる言語の一つです。
アラビア語は喉の奥から発音する音が多い言語です。
特にع(アイン)は咽頭音といい、喉の奥から強く発音するように指導されます。
日本語は声門音が多いため、この子音は意識しないと出せません。
Wikipediaのこの記事にもあるように、調音部位はかなり重要です。
コサ語の吸着音にしろアラビア語の咽頭音にしろ、普段触れる言語圏では使わない調音部位を利用した言葉はかなり奇異に聞こえます。
たいてい日本人は日本語のほかには印欧語族しか触れないので、ここから外れた語族に属する言語から音素を引っ張ってくることはかなり有効だと思われます。
とはいえ、資料が充実していない言語だと厳しいとは思いますが。
4. まとめ
疲れました。三行でまとめます
- アフリカ系とかセム語系の言語から音素をもってこよう
- 文法は英語でも問題ない
- 架空言語を作り込むのはオナニーです







